前編で“修正地獄の原因の多くは受注前にある”ことを整理しましたが、現場では受注後にも大小さまざまなすれ違いが発生します。
後編では、そうした状況に巻き込まれないための線引き、見積りの書き方、コミュニケーションの工夫など、より「実践的な方法」をお伝えしたいと思います。
あらかじめ決めておくべき“線引き”とは?
修正地獄を防ぐには、受注前だけでなく、制作に入ってからも「ここから先は追加作業」という境界を明確にすることが欠かせません。
修正回数の上限をあらかじめ伝える
「◯回まで」のように数字で提示しておくと、後のトラブルを防ぎやすくなります。
もちろん、あえて上限を設けず、クライアントとの対話の中で都度ベストな落としどころを探る人もいますが、個人の場合は自分の時間と品質を守るためにも上限を設ける方が現実的です。
作業範囲を明確にしておく
レタッチの有無、テキスト調整の範囲、素材準備の担当など、境界をはっきりさせることで「そこもお願いできると思っていた」という誤解を避けられます。
軽微修正と大幅修正の定義づけ
「ちょっと直すだけ」のつもりが、
実際は大きな修正だった──というズレは本当に多いです。ただ、ここで問題になるのが「軽微修正のつもりだったものが、結果的に大幅修正へと発展するケース」です。
たとえば、
- テキストを少し変えただけなのにレイアウトが崩れてしまう
- 色を1ヶ所変えた結果、全体の雰囲気が変わり、他の色も調整が必要になる
といったことは、制作ではよく起こります。
これは誰のせいでもなく、デザインの構造上そうなってしまうだけの話です。
影響範囲が大きいと判断したら、進める前に必ず一度立ち止まる
制作者側だけで判断して作業を進めると、後から「こんなに作業が増えるとは思わなかった」とトラブルになりがち。
そこで、影響が大きいと判断した時点でいったんクライアントに確認を入れるのが安全です。
「この修正はレイアウト全体に影響が出るため、大幅修正扱いになります。進めてよいでしょうか?」
たった一言添えるだけで、認識ズレはほぼ防げます。
要は、“合意のプロセス”を挟むことが一番大事
軽微→大幅への発展は避けられません。
そこで重要なポイントはふたつ
- 影響範囲を判断すること
- 必要に応じてクライアントと合意してから着手すること
このプロセスがあるだけで、「思ったより大がかりになってしまった」問題のほとんどが解消されます。
見積り・契約で揉めないための実務ルール
受注前の認識合わせや線引きがしっかりできていても、見積り・契約の段階で曖昧さが残っていると、後のトラブルの種になります。
特に個人クリエイターや小規模チームの場合、「書面にどう書いておくか」が、後々の安心材料になります。
ここでは、修正地獄を避けるために“最低限ここは押さえておきたい” 実務的なポイントを解説します。
1. 見積りに「修正◯回まで」を必ず明記する
最もトラブルが多いのがここです。
見積りや提案資料に、「修正は○回まで」と最初に書いておくことで、後の誤解をほぼゼロにできます。
- 初稿後 ◯回
- ラフ段階は別扱い
- 超過分は追加料金 ◯円/回 など
数字で示すことで、クライアントの理解がぐっと深まります。
2. ヒアリングシートや要件定義を書面化して残す
口頭だけで始めると、「言った/言わない」問題が起こりやすくなります。
最低限、以下の情報は記録に残しておきましょう。
- 目的・ゴール
- ターゲット
- 使用シーン
- 好き/避けたいデザイン例
- 納期・スケジュール
- 作業範囲(どこまでが依頼内容か)
フォーマルな書類でなくてもOK。
GoogleドキュメントやNotionのメモでも十分です。

ミツカルモールはすべてのやりとりをプラットフォーム上で行い、見積もりもいつでも見返せるようになっているので、言った言わない・メールを捨ててしまった、といったトラブルも防ぐことができます。
3. 契約書(または簡易合意書)に入れておきたい条項
すべての案件で契約書は難しいかもしれませんが、
可能であれば次の内容は一つの書類にまとめておくことをおすすめします。
入れておくべき条項例
- 修正回数の上限
- 大幅修正と軽微修正の扱い
- 追加料金の発生条件
- 納期と遅延に関する取り決め
- 素材提供の責任範囲(クライアント/制作者のどちらが準備するか)
- キャンセル規定
これらを先に決めておくことで、後から感情的な摩擦が起きにくくなります。
修正地獄から離脱するコミュニケーション術

修正が増えるのは、作業の問題ではなく“伝わり方の問題”であることが大半です。
少しの工夫で、修正回数は驚くほど減らせることを意識しましょう。
想像に頼らない。曖昧な言葉は必ず確認する
「シンプルに」「明るく」「柔らかい感じで」
といった言葉は、人によって意味が全然違います。
そのため、曖昧な指示が来たら必ず具体例を引き出す癖をつけましょう。
選択肢を提示して意思決定を助ける
「どれがいいですか?」ではなく「AかBか、どちらが近いですか?」と選択肢を出す方が、クライアントは比較して答えやすくなります。
「“明るく”は、色味を明るくしたい感じでしょうか?それとも全体の雰囲気をもっと軽いイメージにしたい感じでしょうか?」
「“シンプル”とは、スッキリ洗練されたデザインか、ミニマムで余白多めの感じか、近いイメージを教えていただけますか?」
比較してもらうことで、クライアントの本音が引き出しやすく、修正が減るだけでなく “意図の理解” が深まります。
要望が曖昧な時は「言語化を手伝う」
「なんとなく違うんですよね…」
こう言われた経験、ありませんか?
これはクライアント側が悪いわけではなく、単に 言語化が難しいだけ です。
こんな時は、感情や印象から入るとスムーズです。
「どんな印象にしたいですか?
明るい/落ち着いた/にぎやか/誠実 など…近いものはありますか?」
感覚を言葉にしてもらうことで、方向性が一気にクリアになります。
イメージを“可視化”するための資料を活用する
クリエイティブを依頼してくれるクライアントは、クリエイティブが出来上がるまでの過程や前提知識は素人です。
クリエイター側も、相手が「前提を知らない」ことを意識して、できるだけ可視化して伝えるのが肝要です。
- Pinterestのボード
- 既存LPの気に入った部分のスクショ
- デザイン参考の短いPDF
- カラーサンプル
- ワイヤーフレーム
クライアントに「これです!」と言ってもらえる材料があると、初稿の的中率が格段に上がり、修正が減ります。
説明する時は“制作の仕組み”を一緒に共有する
クライアントにとってデザインの仕組みは未知の世界。
「なぜこの修正に時間がかかるのか?」がわからないことも多いです。
そこで、プロセスを少しだけ説明しておく ことで理解が深まり、無茶な要求が減ります。
「色を一つ変えると、周りの色とのバランス調整が必要になるため、少し作業箇所が広がります。」
“ダメと言う”のではなく“理由を説明する”ことで、クライアント側の納得感も高まります。
「今どう進めるか?」を相談しながら決める
修正の方向性が変わりそうな時は、クリエイターだけで判断しないことが大切です。
「この修正は全体に影響しそうなので、
A:軽めの調整で収める
B:しっかり整える(追加作業)
のどちらにしますか?」
と選択肢を提示し、クライアント自身に“進め方”を選んでもらう ことで、後のトラブルがほぼ消えます。
併せて、追加作業に伴う費用感も伝えられるとなおいいですね。
受注前のひと手間が、修正地獄をゼロに近づける
制作の現場で起こる「修正地獄」は、スキル不足や相性の問題ではありません。
その多くは、作業が始まる前の小さなすれ違いから生まれます。
こうした“最初の数ステップ”を丁寧にするだけで、案件全体のスムーズさは驚くほど変わります。
明日から使えるチェックリスト
| チェック項目 | チェック | |
|---|---|---|
| 受注前 | 目的・ゴールは明確か | |
| ターゲットや使用シーンは共有できているか | ||
| テイストの参考例をもらっているか | ||
| 作業範囲はお互いに認識が一致しているか | ||
| 見積り・契約時 | 修正回数の上限を明記したか | |
| 軽微修正/大幅修正の定義は共有できたか | ||
| 追加料金の発生条件は説明したか | ||
| 納期のスケジュールは双方で確認したか | ||
| 制作中 | 曖昧な指示は具体的に解像度を上げられたか | |
| 修正が大きくなりそうな場合は事前に相談したか | ||
| 選択肢を提示して進行を迷わせていないか | ||
スムーズな取引の鍵は受注前にあり
修正地獄を避けるために必要なのは、特別なスキルよりも“事前の線引き”と“伝え方の工夫”です。
最初にルールを明確にし、制作が進む中で影響範囲をていねいに共有し、曖昧な指示は解像度を上げて確認する。
これらを積み重ねることで、修正は自然と減り、制作に集中できる環境が整っていきます。




